下北沢

ほとんど何もせず誰にも会わずひきこもって延々考え事をしていた六月、下北沢は主にその人口密度について苦手な町で、期せずして強制リハビリとなった観劇、プリセタの『ランナウェイ』、脚本家にお呼びいただき行ってきた。駅前劇場なので駅を出て徒歩二秒だった。
ある離島、夏、自主映画の撮影のために自宅兼工房を貸している陶芸家の兄とその妹。失踪した父親と養子縁組していたというゲイの中年男が、父親の遺言が録音されたテープを持ってやってきて…という筋。現在の混沌とした頭でもすんなり入ってくる、丁寧に紡がれたセリフで、ずいぶんとセリフを書いてない自分は、言葉をいちいち反芻しながら観ていて、確か三幕目、野村恵里の「私だって家族とか恋人とかいろいろ、諦めてた時期もあったのよ」(不正確ですいません)というところでグッときたのは、女子の口を借りてこういうことを言いたいとか言わせたいとかいう思いが、脚本家と同様あるに違いなく、あーセリフ書こうと思ったりした。
終演後脚本家と少し立ち話、隣のOFF・OFFシアターも終わった時間で、くらくらするほどの人いきれ、申し訳ないと思いつつ早々に帰ってしまった。劇場から徒歩二秒で下北沢駅、電車の中でごめんなさいメールを書き、対人コミュニケーション能力の摩耗を呪う。