けものに比べれば

多分新作になる映画の撮影はとりあえず終わった。『けものがにげる』と同じ撮影部だったのだけど、助手のSくんと久しぶりに会って、「キツい現場でしか会わないねー」と言ったら「いえ、けものに比べれば…」と返され、そうかけものは百戦錬磨の撮影部のトラウマにさえなるキツさだったのかと反省することしきり、とはいえ、個人的にはこの現場だって別のキツさが生じていた。六日間で90ページの台本て。一日100カット撮るって。ピンク映画は同じくらいの日程だと聞くが、ピンクには野球シーンも50人の乱闘シーンもない。
言うほど撮影現場を経験しているわけではないが、六日間の撮影日程のうち六日間雨が降るなどということは初体験だったし、うち一日などは一面の霧、10m先がナチュラル空気遠近法によってよく見えないという、CG使ってないのにここはどこの死の世界ですかという効果が生まれ、日本映画では珍しい光景になっていたり。雨対策で貯金をはたいてゴアテックスのジャケットと靴を購入していったおかげでわりと楽だったけど、靴は泥にまみれていきなりダメになってしまった。
カット「消化」とか「埋める」という言い方が大嫌い、にもかかわらず、シーンではなくカットごとにバラして撮っていくという方法を余儀なくされ、そもそもカット割を事前に考えることをやめた自分としては試練、試練というものはそれを受け入れられる者にだけ訪れるというアレ、疑わざるを得ないし、消耗戦で、毎日半泣きで帰宅していた。いっそ帰宅しないで撮ったらいいのにと思いつつ。
若い俳優たちは柔軟で元気で生き生きとしていて、テストと本番の瞬間は至福、ずっと見てたいのにその時間がないという。老後の楽しみである現場写真も一切撮る時間がなかった。
それでも撮れたものの中には奇跡的なアイコンタクトの瞬間とか、寄せ集めのメンバーが実際にチームとなる瞬間などが写っていて、それが映画に表せることができればいいと思う。
三月初旬はその編集…ではなく、まず『兄兄兄妹』を仕上げないとならない。その間寝かせて新鮮な気持ちで素材を観る。編集用に新しいMacを買うつもり。