青山

青山スパイラル、何を隠そう10年くらい前に行われたある展覧会に映像作品で参加させてもらったことがあるのだがもう誰も憶えてないだろう。カフェであんじを見たことさえある。しかし今となっては界隈を歩くだけで違和感を感じるように成り果て、涼をとりにさえ入らなくなった青山スパイラルホールに行ったのは東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で映画を観るためで、同居人曰く「無難な格好」で単身乗り込んだのはいいが観客はほとんどがカップルであり、何故か少し寂しくなって、ルピシアアムネスティの出店が同居しているカオティックなロビーでしきりにキョロキョロしながら自分のような映画オタ風の人を探すのだが見当たらない。仕方なく僕の友達インターネットに愚痴を書いていたところに表参道で鮎を食っていたので遅れちゃったという知人のO川さんがやってきたのでホッとして入場。

小林でび監督『おばけのマリコローズ』。明治時代の日本で初めてゲイバーを開いたという伝説のゲイボーイが100年の時を越えて安アパートの自縛霊となっており住人であるレズビアンの女の子の恋を応援する、という、こう書くと偏った話にも見えるけど、誰にでも伝わるラブの琴線に触れまくった人情喜劇で、本当に泣き笑い。確信犯的チープさがリアリティをすっとばして、いつのまにか感情の深いところに触れられている、お手本のような映画だった。ベタで下ネタなセリフの応酬のなかで、ジェンダーも生死もぐずぐずに溶け合って、こちらが無防備になってしまったところに、一番シンプルな人と人との関係性が提示される。実際自分は「私たち親友だね」という何でもないセリフでホロリと来てしまったわけで、もうほんと、でび監督、エンターテイナーだなあと。ごく限られた条件の中で撮影し構築していく自主映画としての巧みさも存分に発揮されていたのだけど、若干ネタバレに触れそうなので控える。脚本と演技と少しの工夫で画はもつのだなあ、と気付かされた。一番難しいことだと思うけど。
終わってロビーでマリコローズさん(兼監督)と写真を撮らせてもらったが場内の人がばんばん写り込んでいたのでアップできず。楽しい気分を抱えてちょっと涼しくなった青山から渋谷まで歩いたのだった。