エアコンをつけていると室外機から水が出るが、排水するホースが繋がっているにも関わらず、あらぬ場所から流れるようになってしまい、うちは二階なので室外機の置いてあるベランダが水浸しになりかかる。どこが壊れているのか特定することができず、幸いエアコンは正常に動いているので、とりあえず水浸しを避けるために布きれを置いて、吸わせて→自然に乾かす、ということをやっていたのだけど、今日突然、そんなことではダメだと思うようになったので、100円ショップに行って手桶を買った。風呂で使う手桶である。通常考えられるバケツあるいは洗面器ではないというのは、置き場所とか空間、水漏れの位置であるとか、溜まった水を捨てる時の利便性(持ち手の有無)など、いろいろ考えて手桶にしたわけで、後悔はしていない。さてこれを水漏れのするパイプの先に置けばあとは水が溜まるのを待って→捨てる、という繰り返しになるわけだが、手桶はプラスチック製で非常に軽く、二階のベランダでは風で飛んでしまう可能性がある。重石が必要かも知れない、と、帰り道に手頃な大きさの石を拾って帰ろうと考えた。
石はどこにあるんだろう。
そういえば最近、「手頃な大きさの石」を見ただろうか。拳よりは小さく、甘食よりは大きめな、握るとしっくりくるような大きさの石が放置されているのを見た記憶が全くない。というか記憶に残っているような石というのはたいてい巨大なものか色や形状が特殊なものであるはずで、今求めている何の変哲もない手頃な石はそもそもインビジブルな存在だ。困る自分。多摩川河川敷まで行けば石くらいあるはずだがそこまで行きたくない。石を探す、すこし俯き加減の姿勢で自転車を走らせるものの、道は完全に舗装されていて、雑草やゴミばかり目に付く。空き地があったので自転車を止めて草むらを凝視するのだが、見つかる見つからない以前に、どう見ても不審者になっている自分に気付く自分。仮に見つけたとしても、他人の敷地にある石を拾えば、窃盗罪を構成する可能性も捨て切れない。
砂利道に賭けるしかない、そう思って、帰路唯一舗装されていない道で石を探した。砂利道だけに砂利ばかりで、手頃な大きさのものは埋まっており容易に取り出せない。ここで道を掘ったりしたら通報されてもおかしくない。石ごときでこんな勇気を使わなければならないなどと今朝は想像もしていなかった。「大人が都会で石を得ることの困難さ」などと書くとちょっとした現代的テーゼが立ち上るような気もしないではないが人目もあるしそれどころではない。結局、石的な、適当なコンクリート片を適当に拾って、何食わぬ顔を装いその場を後にした。
帰宅してコンクリート片を軽く洗い、手桶の底に置いてベランダに設置した。大きさといい重さといい丁度よく、自分の見立てが確かだったことを喜びつつ、少しベランダの掃除をして陽にあたりながら煙草を吸った。しかし予想していなかったのは、水の溜まる速度が早いことで、小一時間で手桶から溢れ出すのだった。まめにチェックしながら水を植木に撒くなどするしかないが、真新しい半透明のプラスチック桶に満たされた水の中に沈んでいる「石みたいなもの」は、我が家に現れた新しい存在で、見ていると、なんか美しいとも言えなくもないようなそんな感じ。