大田区

夕方頃に突然ウェンディーズハンバーガーが食べたくなって、というか、本当はバーガーキングが食べたかったのだけど、要するに肉多めのハンバーガーであればとりあえずの欲望は満たされるし、新宿に行きたくないので、肉感溢れるハンバーガーを供するという噂の最寄りのウェンディーズ、といっても数駅先なのだけど、同居人と一緒に行くことにして、雨が降りそうなので傘を持って出かける。なぜか歩いて。ウチから大田区の店舗に行くにはどうしても橋を渡らないとならないのだが、「履いてけー」で一世を風靡した丈が長い下着要するにズボン下を履いているおかげで効果てきめん、比較的楽に多摩川越えを果たせそう。川面に煙が立っていて、誰かが焚き火でもしているのだろうかとひとりごちると、同居人が、あれは温度の違う水が流れ込んでいるから立つものだ、ていうか知らないのかたわけめ、という意味のことを言うので、ヒップホップ用語で「DISる」というのがあるけど、あれは技、アーツ、フローのひとつであって、第三者が見ていて面白くないとダメなのだよ、としたり顔で解説するも、にわか知ったかぶりは効果なくスルーされる。川面の煙改め湯気は水銀灯の逆光に映えて美しい。高校の制服姿のカップルがこの極寒の中河原に下りていく。いつも電車から眺めているはずの大田区への道は意外に凹凸が多く、もはやハイキングといってもいいくらいの急勾配で、息が切れつつ見まわせば、高級な住宅が建ち並んでいて、よくこんな高地ザメンみたいな土地に家を建てるよなあ、と思うが、車を持っていれば坂などあってないようなもので、むしろこの素敵な景観がプラスに転じるということに気付くのにそう時間はかからない。はらがへっているので頭の回転が鈍っているのだし、そういえば雨が降りだした。デジタルなカメラで撮影すればきっと美しい、夜間照明に照らされた誰もいないテニスコートを下界に眺めるころには、ついに目的のウェンディーズが視野に入ってくる。業界最大を銘打つ、通常の三倍の肉がアペンドされているものを今なら軽く平らげられそうな気分だが、後の胃腸の心配もできる心の余裕を最近は持ち合わせるようになってきているので、ダブルのやつにとどめ、そのかわりチリビーンズをオーダーする。以前は一声掛ければたまねぎのみじん切りを多めに入れてくれたものだが、最近はそもそもたまねぎが乗っていない。金土日祝禁煙の敷居高目のウェンディーズでついにありついたハンバーガーは、しかし、期待に反して肉がぱさぱさで黒胡椒の粒がやけに自己主張するしろものだった。雨は雪に変わりつつあって無駄めに満腹、歩いて帰るのはよして電車に乗った。帰宅して数十分後に外の静けさに気付き、カーテンを開けると一面の雪。余ったので貰ってきたチリ用のシーズニングを何に使ったらいいかわからない。