同居人と一緒に投票に行ったところ、寒かったこともあり、そういえばユニクロヒートテックが欲しかったのだわ、と思い出され、そのまま歩いていくことになった。ところが最寄りのユニクロには長蛇の列、レジを済ますだけで数十分待ちそうに見え、何かあったのだろうかと思いを巡らすも、選挙の投票日であるということしか思い付かない。服を選ぶのさえ困難な状況なので諦め、二駅向こうのユニクロまで行ってみることになる。
雨上がりのアスファルトは乾く様子を見せず空はどんよりと曇って寒い。普通なら家から出たくない天気なのだが、途中、東京靴流通センタードトールコーヒーに立ち寄ったところ、どこも混んでいたし、ふと覗いた美容院などは5つある洗髪台がフル稼働していて、人々が顔にタオルをかけられたままなすすべもなく仰向けになり、しかも実際に洗髪されている人は1人しかいないというありさまだった。皆投票に出たついでに何か様子を済ますという流れなのだろうか。とにかく寒さと裏腹に異様な活発さの神奈川郊外。
二駅向こうのファッションビルにあるユニクロはやはり混んではいるがレジ前は常識の範囲内の列で、ほっと安心したのも束の間、別の混乱がヒートテック商品の棚周辺で起っていた。昔のテレビドラマなんかで、やれバーゲンだタイムセールだ、眼をらんらんと輝かせた女性たちが我先にとワゴンの品を狩るさま、あれが現実に起こっていたのである。女性だけではない、男性すらそうなのだった。主婦らしき人が新聞の折り込みチラシを手に店員に詰め寄り、目当ての商品を扱っていないと知るやあからさまな不平を口にする、この時点で何か特売情報がチラシで配布されたのだと知るが、皆何か高揚していて奪うように買うわ買うわ、まだまだ日本は現役だゾ!と頼もしく思う反面疲れ果て、這う這うの体でヒートテックを二枚だけ購入。
ユニクロの狂騒から離れ、様々なファッションを扱うメンズのフロアを見ていて、衿のついた上っ張りのようなものを持っておく必要があるのではないかという切迫感にかられる。自分は本当に、心の底から、腹の立つほど衿のついた服が似合わない。しかし人前に出るのに丸首の運動着ではそろそろまずい(年齢的に)という思いも抱えている。
本当に不思議だ。みんなどういうモチベーションでジャケット・ブレザーの類いを着こなしているのか。一体いつ出会ったのか。中学、高校、いや大学まで誰も着てなかったじゃないか。しばらく見ないあいだに、いつのまにか小粋にジャケット羽織って胸ポケットからiPhone出して食べログ検索してるじゃないですか。なんでですか。お金ですか。
お金ですよね、と思いながら、安い店とそこそこの店と高級な店のジャケットをそれぞれ試着した。自分には似合わないと思われたジャケットだが、やはり高級な店のものは着心地もよく体にフィットして見栄えがいいのだった。あちゃー、これいいなー、と久しぶりに服への興味もわいた日曜日、このようにして人はジャケットと出会うのでした。買わなかったけど。