京橋

梅雨が明けたと思ったらいろんな映画祭が始まってしまったのだが、主に経済的な事情と脆弱な自意識によってなかなか出掛けられない。こんなことではいけない。PFFで『賽ヲナゲロ』という天野千尋監督の作品に元生徒の玉川佐知(『兄兄兄妹』でいうところの陸上選手、ヨーコさん)が主演しているというので、これはどうしても会って感想を伝えねばと思い、歯を食いしばって大地をしかと踏みしめフィルムセンターに向かった。誰にも会いませんように、と半ば祈りながら京橋駅の1番出口を出たらいきなり知っている俳優に会ったので隠密行動は諦めて、そこからは、二回しか会ったことがない監督から直接チケットを購入するなど申し訳ない行動の数々を重ねた。会場である大ホール前で旧知の映画祭関係者の方と目が合ってしまい、会釈だけではあれだし、とはいえ不義理を重ねていて本気で話しだしたら30分程度の時間を要するはず、そんな時間はないのだし第一声を何にしようか考えた揚げ句出てきた、「あの、あれ、あの、賽ヲ映画に、僕の元生徒が」などというやや意味不明の言葉を関係者の方は察してくれた様子だったので、ほっとして、もうこの日は誰に会っても役者の宣伝をしようと心に決めて映画を観た。
映画には玉川佐知ばかりではなく橋野純平や小竹原晋がメインキャストとして出演していて、知らなかったもので少し驚きながら観ていた。拙作で配した役の逆サイドを攻めるようなキャスティングと演出で、あ、こんな顔もできるのか、と新しい発見があった。玉川は主演女優賞制度がもしあるなら候補に上がるだろう、というタイプの熱演で、よく演じ切ったし、引っ張り出した監督も一筋縄ではいかない感じがする。拭い切れないような血に関する物語であり、そういえば監督の前作もそうだったことを思い出す。
元生徒の主演してる作品がPFFでしかもフィルムセンターのスクリーンでかかっているということがふつふつと嬉しい。終わってガヤつくロビーで役者二人に感想を伝え、喫煙するために入った喫煙所で会った知っている監督に「今の映画に僕の元生徒が」という旨を伝え、出口で会った知っている俳優にも同じ意味のことを伝え、フェードアウトするようにそのまま電車に乗った。地元でようやくリラックスして喫茶店で同居人とお茶して人心地がついたのだった。またフィルムセンターに行くことになるが、その時にはまた一から歯を食いしばり直さなければならない。